お知らせ
2023年 「岡田先生オーストラリア講習会」 10月13日~17日
2023-10-24
2023年 「岡田先生講習会」
10月13日(金)、16日(月)、17日(火) 於 メルボルン謙志館
10月14日(土)、15(日) 於 モナシュ大学
文責 / 伊藤慧
***
2020年春からの新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、渡航や稽古が大幅に制限されました。岡田先生が講習会のためオーストラリアに渡航されるのは実に4年ぶりとのことでした。
***
1日目の講習が行われたメルボルン謙志館は市内に(故)大塚謙志郎氏のご寄付により設立された道場で、試合場が一面余裕を持って作れるくらいの広さがあり、黒光りした美しい床板が印象的でした。今回通訳や移動などで大変お世話になりました矢野陽一先生(剣道教士七段)やピーター・シュワルツボード先生(剣道教士七段、居合道錬士六段)を筆頭に老若男女、人種も様々な20名以上の剣士が参加されました。
初めの講話にて、岡田先生が謙志館にて居合を勉強されている方々に「剣居一体」についてご教授されました。剣道の立合が立合のためだけのものに、また居合が居合のためだけのものにならないよう注意を促され、一つの具体的な事例として「面」を打つ/斬ることについてご説明されました。面布団、ひいては頭のてっぺんを叩くことに執心してしまいがちな現代剣道と風音を鳴らすことに終始してしまう現代居合道とを俎上に上げて戒められ、剣道の立合と居合とを車の両輪と考え両方の修練をすることを勧められました。
前週の25℃超えにも関わらず約10℃氣温が下がったそうで大変肌寒かったメルボルンですが、参加者の方々は集中を切らすことなく、それでいて熱氣に溢れた稽古となりました。
***
2日目、オーストラリアはメルボルン郊外(市内より車で20分程度)のクレイトンに位置するモナシュ大学の運動施設で午前午後合わせて6時間にも及ぶ講習会が行われました。カラフルな野鳥などが見られる緑豊かなキャンパスの中に建つきれいな体育施設で、会場はバスケットボールのコート1つ分もの広さがある道場でした。参加者は、ヴィクトリア州のみならず北東部のクイーンズランド州など国内各地から60名以上が集い、大学のクラブチームの選手のみならず、オーストラリア在住の日本人剣士や、親子で参加される現地の皆様もいらっしゃいました。
この講習は、前もって集まったいくつかの質問に対し、岡田先生が様々なエピソードや具体例、ときにジョークを交えつつ解答なさるという形式の講話より始まりました。師についての質問では、先生の日体大時代からの恩師である志澤邦夫先生の話題が上がり、オーストラリアを毎年訪れ剣道の発展に尽くされたご功績にも触れられました。「師匠」と「恩師」の区別についても解説され、そこから「流派」「一子相伝」「守破離」「競争から(師弟による)共創へ」などへ話題が広がりました。
木刀での三挙動の面打ち、面抜き面による跳躍素振り、制定居合11本目の総切り式切り返しの素振りを行ったのち、面を着けて同じことを行いました。上級者は木下寿徳『剣法至極』にも記述がある右片手による(鳥)刺し面の練習を行い、左右バランスを整え、手の寛ぎを意識する時間となりました。
同行された実業団の女性剣士冨永比奈野選手(第17回世界剣道選手権優勝チーム所属、全日本女子剣道選手権大会4回出場)に現地の女子選手が6人掛かる試合も行われました。胸を借りるつもりで全力で来るオーストラリア剣士に負けじと押し返そうとする冨永選手の氣迫を拝見できる試合となりました。
稽古のなかでは、参加者の方々の空間打突が、先生の肩甲骨の意識への呼びかけにより徐々に柔らかく、伸びやかになっていくのを目の当たりにでき、進歩できたことへの嬉しさと感動を皆様から感じられました。
***
3日目のモナシュ大学での講習を始めるにあたって岡田先生は「事理一致」という言葉の解釈と実用についての質問へのご解説をなさいました。「理」という漢字のつく様々な熟語を例に挙げ、オーストラリア/フランス/日本の国民性などを比較しつつ、志澤先生ご揮毫の「一」という手ぬぐいの題字にも言及されました。
そしてその「理」を現代に伝えるものとしての剣道形(勢法)の解説に入られました。「氣」や「独楽体」については独楽回しの実演を交えながらお話をされました。剣道形の実践においては、正確な位置を打突すること、そして氣を合わせること(合氣)などについて注意喚起がなされ、礼法における氣持ちのズレにまで話題が遡りました。
最後の礼を行うとき、講習当初はバラバラで揃わなかった60以上の頭の動きがぴったりと調和して下がり上がりする壮観なさまが垣間見えました。
***
4日目、再びメルボルン謙志館において刀法の講習が行われました。先生が相撲の動きにアレンジを加えられたかしわ手を打つ練習より始まり、居合腰でまっすぐ斬り下ろすことを教わりました。制定居合の1本目「前」や4本目「柄当て」などの解説がなされ、納刀/抜刀を左手で円運動によって行うよう呼びかけられました。
この日の講習の最後、謙志館の師範室に置かれていた居合の写真集のなかから先生がお祖父様の岡田守弘先生の写真を紹介されました。他の先生方と異なり剣道の大家でもあられたお祖父様の鬼氣迫る眼と足の指が記録されているこの写真が類稀なるものであることを指摘され、参加者の方々も印象深く見られていました。
***
5日目、今回の行程の最後を締めくくる講習として謙志館にて剣道の稽古会がおこなわれました。最初の素振りにおいて岡田先生は、これまでの講習で学んだことを活かすためにゆっくりと行うことを勧められました。面を着けての地稽古に入り、先生の前には長蛇の列ができました。どの剣士も先生の氣に当てられつつ一所懸命に懸かり、剣を納める頃にはへとへとに疲れて次の列へ向かっていくのが印象的でした。
最後に日本から同行したメンバーが先生に懸かってゆく様子が示され、廣川美賀先生(教士七段)や布沢耕平先生(錬士七段)といった七段の先生方も冨永選手のような第一線の若手選手もそれぞれに勉強することがあるという教えが先生から謙志館の皆様に贈られました。稽古で疲れ果てた参加者の方々も面を外すと爽やかな表情で先生へのご挨拶の列に並ばれ、感謝の言葉を述べておられました。
***
オーストラリアの剣士たち(とくにメルボルン謙志館の方々)はみな熱心に剣道に打ち込まれ、同時に居合を修練されている方々が多いのが印象的であり、かつ自分の不勉強を反省させられました。日本語を学ばれている方も多く、意欲の高さ、求める態度の徹底ぶりに頭が下がりました。
補助指導員としてこの行程に帯同させていただくなかで、通訳のお手伝いをする機会を頂きました。「軸を作る」や「踏み切る」など日本語の表現として頭に定着していた剣道の教えを、改めて英語として意味の通る表現に置き換えるためには、今一度日本語の字面から離れて真にその意味するところを映像のようなイメージにして考え直す必要があり、自分にとっても大変勉強になりました。また、普段先生よりうかがっている教えもオーストラリアという別の環境、海外剣士向けの講習会という別の文脈で再度触れることでより一層理解が深まりました。
恩師の志澤邦夫先生より岡田先生が受け継がれたこの講習会にまた我々が参加させていただく、というところで剣縁の広がりを感じました。そしてメルボルンの皆様には移動、食事、観光と大変お世話になりました。この場をお借りして感謝申し上げます。
なお、今回の特別稽古は、Haku UnのBANDでもライブ配信しておりました。機材の都合等で大変見苦しくなってしまう場面もございました。誠に申し訳ございませんでした。それでもご視聴くださった皆様、ありがとうございました。
今回の講習にて先生の教えに触れたことで志を同じくする海外剣士の方々が増え、Haku Unの活動がますますさかんになり、その剣縁がますます広がることをお祈り申し上げます。
(おわり)
10月13日(金)、16日(月)、17日(火) 於 メルボルン謙志館
10月14日(土)、15(日) 於 モナシュ大学
文責 / 伊藤慧
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2020年春からの新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、渡航や稽古が大幅に制限されました。岡田先生が講習会のためオーストラリアに渡航されるのは実に4年ぶりとのことでした。
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1日目の講習が行われたメルボルン謙志館は市内に(故)大塚謙志郎氏のご寄付により設立された道場で、試合場が一面余裕を持って作れるくらいの広さがあり、黒光りした美しい床板が印象的でした。今回通訳や移動などで大変お世話になりました矢野陽一先生(剣道教士七段)やピーター・シュワルツボード先生(剣道教士七段、居合道錬士六段)を筆頭に老若男女、人種も様々な20名以上の剣士が参加されました。
初めの講話にて、岡田先生が謙志館にて居合を勉強されている方々に「剣居一体」についてご教授されました。剣道の立合が立合のためだけのものに、また居合が居合のためだけのものにならないよう注意を促され、一つの具体的な事例として「面」を打つ/斬ることについてご説明されました。面布団、ひいては頭のてっぺんを叩くことに執心してしまいがちな現代剣道と風音を鳴らすことに終始してしまう現代居合道とを俎上に上げて戒められ、剣道の立合と居合とを車の両輪と考え両方の修練をすることを勧められました。
前週の25℃超えにも関わらず約10℃氣温が下がったそうで大変肌寒かったメルボルンですが、参加者の方々は集中を切らすことなく、それでいて熱氣に溢れた稽古となりました。
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2日目、オーストラリアはメルボルン郊外(市内より車で20分程度)のクレイトンに位置するモナシュ大学の運動施設で午前午後合わせて6時間にも及ぶ講習会が行われました。カラフルな野鳥などが見られる緑豊かなキャンパスの中に建つきれいな体育施設で、会場はバスケットボールのコート1つ分もの広さがある道場でした。参加者は、ヴィクトリア州のみならず北東部のクイーンズランド州など国内各地から60名以上が集い、大学のクラブチームの選手のみならず、オーストラリア在住の日本人剣士や、親子で参加される現地の皆様もいらっしゃいました。
この講習は、前もって集まったいくつかの質問に対し、岡田先生が様々なエピソードや具体例、ときにジョークを交えつつ解答なさるという形式の講話より始まりました。師についての質問では、先生の日体大時代からの恩師である志澤邦夫先生の話題が上がり、オーストラリアを毎年訪れ剣道の発展に尽くされたご功績にも触れられました。「師匠」と「恩師」の区別についても解説され、そこから「流派」「一子相伝」「守破離」「競争から(師弟による)共創へ」などへ話題が広がりました。
木刀での三挙動の面打ち、面抜き面による跳躍素振り、制定居合11本目の総切り式切り返しの素振りを行ったのち、面を着けて同じことを行いました。上級者は木下寿徳『剣法至極』にも記述がある右片手による(鳥)刺し面の練習を行い、左右バランスを整え、手の寛ぎを意識する時間となりました。
同行された実業団の女性剣士冨永比奈野選手(第17回世界剣道選手権優勝チーム所属、全日本女子剣道選手権大会4回出場)に現地の女子選手が6人掛かる試合も行われました。胸を借りるつもりで全力で来るオーストラリア剣士に負けじと押し返そうとする冨永選手の氣迫を拝見できる試合となりました。
稽古のなかでは、参加者の方々の空間打突が、先生の肩甲骨の意識への呼びかけにより徐々に柔らかく、伸びやかになっていくのを目の当たりにでき、進歩できたことへの嬉しさと感動を皆様から感じられました。
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3日目のモナシュ大学での講習を始めるにあたって岡田先生は「事理一致」という言葉の解釈と実用についての質問へのご解説をなさいました。「理」という漢字のつく様々な熟語を例に挙げ、オーストラリア/フランス/日本の国民性などを比較しつつ、志澤先生ご揮毫の「一」という手ぬぐいの題字にも言及されました。
そしてその「理」を現代に伝えるものとしての剣道形(勢法)の解説に入られました。「氣」や「独楽体」については独楽回しの実演を交えながらお話をされました。剣道形の実践においては、正確な位置を打突すること、そして氣を合わせること(合氣)などについて注意喚起がなされ、礼法における氣持ちのズレにまで話題が遡りました。
最後の礼を行うとき、講習当初はバラバラで揃わなかった60以上の頭の動きがぴったりと調和して下がり上がりする壮観なさまが垣間見えました。
***
4日目、再びメルボルン謙志館において刀法の講習が行われました。先生が相撲の動きにアレンジを加えられたかしわ手を打つ練習より始まり、居合腰でまっすぐ斬り下ろすことを教わりました。制定居合の1本目「前」や4本目「柄当て」などの解説がなされ、納刀/抜刀を左手で円運動によって行うよう呼びかけられました。
この日の講習の最後、謙志館の師範室に置かれていた居合の写真集のなかから先生がお祖父様の岡田守弘先生の写真を紹介されました。他の先生方と異なり剣道の大家でもあられたお祖父様の鬼氣迫る眼と足の指が記録されているこの写真が類稀なるものであることを指摘され、参加者の方々も印象深く見られていました。
***
5日目、今回の行程の最後を締めくくる講習として謙志館にて剣道の稽古会がおこなわれました。最初の素振りにおいて岡田先生は、これまでの講習で学んだことを活かすためにゆっくりと行うことを勧められました。面を着けての地稽古に入り、先生の前には長蛇の列ができました。どの剣士も先生の氣に当てられつつ一所懸命に懸かり、剣を納める頃にはへとへとに疲れて次の列へ向かっていくのが印象的でした。
最後に日本から同行したメンバーが先生に懸かってゆく様子が示され、廣川美賀先生(教士七段)や布沢耕平先生(錬士七段)といった七段の先生方も冨永選手のような第一線の若手選手もそれぞれに勉強することがあるという教えが先生から謙志館の皆様に贈られました。稽古で疲れ果てた参加者の方々も面を外すと爽やかな表情で先生へのご挨拶の列に並ばれ、感謝の言葉を述べておられました。
***
オーストラリアの剣士たち(とくにメルボルン謙志館の方々)はみな熱心に剣道に打ち込まれ、同時に居合を修練されている方々が多いのが印象的であり、かつ自分の不勉強を反省させられました。日本語を学ばれている方も多く、意欲の高さ、求める態度の徹底ぶりに頭が下がりました。
補助指導員としてこの行程に帯同させていただくなかで、通訳のお手伝いをする機会を頂きました。「軸を作る」や「踏み切る」など日本語の表現として頭に定着していた剣道の教えを、改めて英語として意味の通る表現に置き換えるためには、今一度日本語の字面から離れて真にその意味するところを映像のようなイメージにして考え直す必要があり、自分にとっても大変勉強になりました。また、普段先生よりうかがっている教えもオーストラリアという別の環境、海外剣士向けの講習会という別の文脈で再度触れることでより一層理解が深まりました。
恩師の志澤邦夫先生より岡田先生が受け継がれたこの講習会にまた我々が参加させていただく、というところで剣縁の広がりを感じました。そしてメルボルンの皆様には移動、食事、観光と大変お世話になりました。この場をお借りして感謝申し上げます。
なお、今回の特別稽古は、Haku UnのBANDでもライブ配信しておりました。機材の都合等で大変見苦しくなってしまう場面もございました。誠に申し訳ございませんでした。それでもご視聴くださった皆様、ありがとうございました。
今回の講習にて先生の教えに触れたことで志を同じくする海外剣士の方々が増え、Haku Unの活動がますますさかんになり、その剣縁がますます広がることをお祈り申し上げます。
(おわり)
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