お知らせ
2023年4月27日(木)於 尚道館 「チリ共和国より来館した剣道家一行のための特別稽古」
文責/高橋博
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コロナ禍が落ち着いたこともあり、また円安という経済状況も加勢して日本を訪れる外国人がここ最近、戻り始め、いわゆる”インバウンド”が再燃しています。
旅行者として観光地を訪れ、日本の名所旧跡、文化や食べ物などを楽しむ人が大半であろうと想像しますが、中には日本でしか得られない”学び”求めて来日される外国人も少なくないと聞きます。
このような状況がある中で、世界に武道の素晴らしさを発信するSNSコミュニティ"BUSHIDO JAPAN"を主催する稲山純さんより岡田先生に連絡がありました。(稲山さんは白雲会の稽古場として時々お借りする「国際武術研修センター遊業庵」のご関係です。)
「チリから剣道家の一行が来日するので、尚道館で稽古をさせてもらえないだろうか?」 岡田先生は快諾され、去る4月27日(木)10時より、尚道館での特別稽古が行われることとなりました。
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稲山さんに連絡したのはミゲルさんというチリ人の剣道家でした。剣道五段、チリのナショナルチームで10年活躍され、世界剣道選手権大会にも3回(2009年ブラジル、2012年イタリア、2015年日本の各大会)にも出場経験がある方です。 国際武道大学への留学経験や都内警察署の稽古にも参加された経験があり、剣道の実力はもちろん、日本語も堪能です。今は、日本に住んでいる時に知り合ったロシア人の奥様の故郷、サンクトペテルブルクに住んでいて、ロシアやヨーロッパで剣道・居合の指導者として活動されています。
同行して来日したチリからの剣道家8人は、ミゲルさんにオンラインで剣道を習っていて、その指導の一環で、日本への”武者修行旅”が実施されました。ミゲルさんはコロナ禍前は毎年日本への研修旅行を実施されていて、一時、コロナ禍でストップしていた折に、YouTubeで岡田先生の指導動画を見て感銘を受けていたそうです。そしていよいよ、世の中の状況が好転し、ミゲルさんご一行が尚道館へ来館することになりました。なお、チリから日本へは、アメリカのアトランタで飛行機を乗り継ぎ、30数時間のフライトになるそうです。彼らは滞在費を節約するために杉並区高井戸の民泊に滞在していました。
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尚道館の特別稽古では、改めて剣道の基本を岡田先生はご教授されました。
10時の開始からまず約1時間の講義が行われ、剣道の成り立ち、剣術からの歴史、文化的な背景に始まり、「剣」「道」の言葉に込められた意義が伝えられました。剣道が武士道からの流れにあること、刀と竹刀の関係に話はおよび、元々の剣(つるぎ)を刀(かたな)に発展させた日本人の叡智についてのご説明がありました。
チリの方々は剣道と同時に居合いを学ばれているとのことで、日本刀のお話には特に関心が高かった様子でした。日本刀には、反りがあり、鎬があり、そして、平べったいことなど、改めて日本刀が持つ”斬る”ことを目的とした機能特性を改めてご説明されました。竹刀の語源が”しなう”であること、竹刀は日本刀を模したものであり、剣道では竹刀を日本刀のように扱わなくてはならないという剣道を嗜む上での根本的な考えをお伝えいただきました。さらに、剣道は、”武芸”であるとの言及は、チリの方々が改めて大きく感心されたメッセージだったと感じました。岡田館長の言葉をスペイン語に同時通訳するミゲルさんが”art”と通訳したその言葉は、外国人が剣道に抱く文化的な評価、精神性への憧れに対する明確な回答だったのではないかと感じました。
講義の後は基本稽古の指導となりました。
面は着けないで竹刀を持ち整列し、初めは竹刀をいったん床に置いて、背伸びのストレッチから。「体全体を伸ばし、大きな構えをとれるように」とのご指導。相撲の土俵入りのような動きで、肩甲骨を開きながら腕を大きく広げ、体の正面でパンと掌と掌を打つ。柏手を打つ要領。「両掌が合わさったところが体の中心」との岡田先生の言葉に促され、チリの方々もパン、パンと手を打ちます。腕を伸ばし、指をぱっと開いて伸ばす運動もご指導されました。指先まで意識が通わせるのがなかなか難しいようで、チリの方々もこの単純な動作に案外苦労されていました。指先や体の中心を意識するための方法について、チリの方々が自国に戻られても活用できるようなシンプルな準備運動を通して、岡田先生はご指導されていました。
次に竹刀を持ち、構え方から。
剣先がどこに向かっているか。体の運用、大きく正面素振り。背中に竹刀がつくまで大きく振りかぶっての素振りから。次に、頭の上、横から見て45度の角度で振りかぶる。その際、左手が揺むと竹刀が下がるので、その解決法の指導が丁寧になされました。正面素振り、左右面の素振りを繰り返し、そして早素振り。日頃から岡田先生のご指導にあるように、早素振りを繰り返すことで得られるものは多い。 岡田先生から「早素振りは毎日1000回はやれるようになりたい」と伝えられ、さすがにチリの方々からも「えっ?」といった反応がありました。「1000回はだいたい20分。無駄な力が入っていては20分も続けることは出来ない」と、早素振りが教える大事なことを、岡田先生は改めてお話されました。
チリの方々は剣道と一緒に居合も習われているとのことで、面を着けない基本稽古もスムーズに行っていたように感じました。それでも、一時間以上、基本を徹底的に行う尚道館の剣道指導にもしっかりとついて行っていたことが素晴らしいと思いました。給水し、面を着けての稽古は、尚道館の岡田守礼さん、清水桂子さん、伊藤慧さんが参加し、一緒に地稽古をされました。岡田先生にもかかって、本格的な尚道館の稽古となりましたが、チリの方々は氣を緩めることなく熱心に稽古をされていました。最後の礼が終わったのは午後1時半頃。優に3時間を超える濃密な特別稽古でした。
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尚道館を訪れたチリの剣道家一行は、自国でしっかりと剣道の修練を積んでいる方々が、さらなる”学び”を求めて日本にやって来ました。日本で学ぶ意義、さらに言えば、尚道館で剣道を学ぶことに大きな価値を見い出していらっしゃたと思います。そして、今回の特別稽古がその目的に適うものだったと拝見していて確信しました。
剣道の本質、基本を学ぼうとしても、案外、自身の剣道環境においては十分に教えてもらえない、という現実は少なからずあることと感じます。それは日本でも同じかもしれません。昨今、インターネットの普及でYouTubeで指導動画が見られたり、オンラインでの学びが可能になったという恩恵も我々はたくさん受けています。オンラインで情報を得たり、つながったりする段階から、さらにこうして、オフラインでも剣を交わし合えるようになりました。地球の反対側の剣道家にとってはミゲルさんの様に最良の指導者、師と出会うきっかけにもなっていますし、門弟の我々にとっては、そうやって剣縁の出来た方々と一緒に稽古が出来ます。剣道を通じて得られる経験として、大変に素晴らしいものと感じた次第です。
なお、今回の特別稽古は、Haku UnのBANDでもライブ配信しておりましたが、稲山さんのBUSHIDO JAPANでもTikTokのコミュニティを通して世界中の多くの方がライブ配信を視聴していたそうです。
稲山さんよりユーザーの分析をいただきましたので、ご紹介します。
総視聴数 55,700人
フォロワーは5%で95%がその他の視聴者
コメントした視聴者が462人
いいねをした視聴者が40,900人
シェアをした視聴者が184人
東京ドームが55,000人しか入らないので60,000人収容の国立競技場並みのオーディエンスでした。(全員が一度に見ていたわけではありませんが)
海外への周知や、イベントの開催、白雲会の実施方法などを十分に検討しながら、さらにメンバーのみなさんと一緒に盛り上げて行きたいと、大きな可能性とともに、改めて感じた次第です。
Haku Unがつなぐ剣道の縁、岡田先生が提唱される”真剣縁”がさらに大きくなることを祈念したいと思います。
(おわり)
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